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2009年7月 2日 (木)

蛸(こーじ)

 7月2日は、ユネスコ加盟記念日、たわしの日、蛸の日です。
 タコはイカと全形が類似して吸盤をそなえた8本の足があり、丸くて頭とみなされる腹部をもつ点で、一種奇怪な擬人的生物としての感覚を起こさせるようで、漫画などでしばしばタコ坊主などとして扱われるほか、禿頭(とくとう)の人とか赤褐色の外皮から酔漢を連想させるあだなにもなっています。巨大なタコは伝説化して人をとる怪物のようにも伝えられました。また、蛇が海中に入ったものが変じて7本足のタコとなり人を襲うなどとも語られ、北陸海岸から北日本にかけてこの種の怪異談が伝えられています。また、タコはサトイモを食うことを好み、海岸の砂畠に栽培するイモを、6本の足を使って立って陸上を歩み、他の2本の足で土を掘ってイモを取っていくなどとも語られていました。これは芋とタコとを煮たものが美味なところから生まれた戯話ではないかと考えられますが、近世の随筆や奇譚におりおり扱われた話題です。タコは飢えると自分の足を食って生き続けるという説もあって、利益が上がらず財産を処分しながら配当を続ける会社の行為を蛸配当などともいいます。蛸壺の中にとじこもる性質などから連想された行動かもしれません。タコは形ににあわず美味なところから、これを食うことを禁じて自己の謹慎する誠意を示す意味で、タコを描いた絵馬を奉納して病気の治癒を祈願する風習があり、京都の蛸薬師はもと永福寺本尊で、現在は中京区の妙心寺本尊となっていますが、薬師信仰としての治病祈願に、婦人病、小児病の治癒のためタコを禁ずるといって祈願するので名高いそうです。形から妊婦がタコを食べると生まれた子がいぼができるとか、骨なしになるといって、妊婦の食物としては与えないようにすることも俗信として行われています。さらに子どもの夜泣きを止めるまじないとして薬師や地蔵に、タコの絵馬を奉納する例も各地に知られています。
 タコが自分の触腕を食べ、しかも食べた触手は再生するという俗信は、すでに大プリニウスの《博物誌》にも述べられています。そのためキリスト教世界では守銭奴の象徴となりました。これは、交尾期に生殖器の役を果たす雄の触腕が雌の外套腔に挿入される現象から生じた説と思われます。タコは近づく魚を引き寄せて捕食するので、誘惑者や裏切り者、あるいは悪魔と同一視され、devilfish の名が一般化しています。西洋では古くから海の怪物の伝説が存在していましたが、タコも《オデュッセイア》に語られる12本足と6頭の怪物スキュラ Skylla などと混同されました。さらに19世紀初めに博物学者ドニ・モンフォール Pierre Denys‐Montfort は、船を海中に引きずり込むという怪物クラーケンの正体を大ダコと断定し、〈地上で最大の凶暴な生物〉という恐しいイメージを定着させました。ユゴーはこれにヒントを得、《海で働く人々》(1866)で人間を襲うタコを描き、J. ベルヌや H. G. ウェルズも怪物としてのタコのイメージを作品に盛り込んでいます。吸盤や触腕の形からタコを好色のシンボルとみなすことも古来行われ、タコの肉は催黒作用をもつと信じられました。なお、タコを表す英語 octopus などは、ギリシア語 okto と pous の合成に由来し、原義は〈8本足〉です。

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